青の空 4話 「あいつはヒーロー」







「立てコラぁー!!!!!」














強面の男がそう叫びながら近づいてくる。









これは一体...?






















時は遡り数分前。
















「このホームルームが終わったら応援歌練習になります。場所はこの教室です。応援団の先輩方が来てくれますので」









帰りのホームルームの中で伊藤先生が言った。











「昨日言った生徒手帳はみんなちゃんと持ってきましたか?生徒手帳
に校歌と応援歌の歌詞が載っていますので」





あ、やばい。家に置いてきてしまった。



ま、何とかなるでしょ。







深く考えずに先生の話を聞き流した。










「それではこれでホームルームを終わります。みなさん...頑張って下さい」










伊藤先生が不気味に笑う。














なんだ?何か嫌な予感がする。























しばらくすると、廊下から大きな太鼓の音が聞こえる。
















「ドン!」















太鼓が連打され、どんどん間隔が短くなっていく。






「ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドンドンドンドンドンドドドドドドド、」









「ドンドン!」












最後に強い2発が叩かれた瞬間、












「バーン!!!」














教室のスライド式の古い扉がものすごい勢いで開かれる。












「立てーーーー!!!!!」











「立てコラぁーー!!」













強面の応援団が5.6人叫びながら教室に入ってくる。











クラス全員戸惑いながらもイスから立つ。










「これから!!!応援歌練習を始める!!!!」











「おい!!!返事!!!」









「はっはい....!」






「聞こえねー!!もう一回!!!」





「はい!!」





「聞こえねー!!もう一回!!!!」






「はぁい!!!!」










な、なんだこいつらは...








めちゃくちゃだ....











「まず最初に校歌から!最初におれたちが歌ってそのあとおまえらに歌ってもらう。ちゃんと聞いとけ!!!!」











「はい!!!!」












伴奏なしのアカペラで応援団が教室を回りながら歌い始める。









みんなは生徒手帳を出して必死に覚えようとする。










まずい。







非常にまずい。













生徒手帳が無い.....。






やつらにバレたら殺される。







校歌なんて入学式の時に聞いただけだし

覚えているわけが無い。












やばい。






おれの人生もここまでか....








その時だった。















「バサっ」







背中に何かが当たって床に落ちる。









「!!」










生徒手帳だ。













後ろを振り返るとコージが頷いている。


















おれに貸してくれたのか?











いや、あいつもちゃんと持っている。











何故だ?












やつらの目を盗んで生徒手帳を拾う。













生徒手帳を開く。









顔写真を見ると顔がコージに似ているが少し違う。















名前を見ると去年卒業したコージの兄の名前だ。












なるほど!







助かった.....。













「次お前ら歌ってみろ!!!!!」





「はあい!!!」









えー...一回で覚えれなくない...?









うろ覚えながら歌いだす。








「もっと声だせー!!!!!」









「おい声だせー!!!!」











あーもうやだ早く終わってくれよー...










「おいお前ら覚えて無いのか!!もう一回おれらが歌うからよく聞いとけ!!!!」














これを2.3回繰り返し、















「明日は第一応援歌もやるからちゃんと覚えてこいよ!!!!返事!!!!」









「はい!!!!」

















応援団が教室から去っていく。








長い長い応援歌練習が終わった。







嵐が過ぎ去り、解放されたおれたちは

安堵の気持ちが溢れ出しまわりの友達と話しだす。











「助かったよコージ!今日ばっかりはヒーローに見えたぜ!」










「ああ、ファインプレーだったろ?」






「うん、今まで一番かっこよかったよ。ところで何で兄ちゃんの生徒手帳持ってたんだよ?」












「この学ラン兄ちゃんのお下がりで、ポケットにそのまま兄ちゃんのが入ってたんだよ。こんなところで役に立つとはな。」







「そうかそうか。ラッキーだった。でもなんでおれが生徒手帳忘れてきたってわかったんだよ?」









「後ろからみたら生徒手帳がなくて焦ってるって
丸わかりだったぞ!」









コージが思い出し笑いしながら言った。







「めっちゃ面白かったよ?ヤマトたちにも見せたかったな!」










「こっちはもう死も覚悟してたんだよ。絶望の淵に立ってたよ。」






いつもの帰り道、みんなと合流する。










「おい、応援歌練習....やべーな」





「先輩って怖いんだな...」






「これが縦社会か....」





「これが大人になるってことなのか....」







「大人になんかなりたくない...」









「コージ、大丈夫だよ、お前はなれないから」






「おい、ナメんな!」







「ちょっと待て、今日のコージはかっこよかったんだぜ。かくかくしかじか......」





「へー!やるじゃん!」






「てかまずお前ちゃんと生徒手帳持ってこいよ!昨日おまえらのクラスの先生にも言われただろーよ?」









「確かに」






「ですよねーー」








「明日からみんなで応援歌歌いながら登校するか!」






「それいいな!そうしよう!」









来週の終わりまで続く応援歌練習のことを考えると憂鬱になるが
みんなといるときは気持ちが紛れた。













今夜はあの怖い応援団の顔が夢に出てきそうだ。




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