青の空 1話「春の木漏れ日」







「鮮やかな花々に包まれ、春の香りが満ち溢れる、春爛漫のこの良き日に入学式を迎えられましたことを、心から…」







長くて退屈な校長の式辞。






体育館の窓からは満開の桜の木が並んで立っているのが見える。








ドタッと体育館に鈍い音が響く。






誰かが貧血で倒れたようだ。




小学校の頃から思っていたのだが校長の話の時に誰かが貧血で倒れるのはお決まりなのだろうか。




少し周りを見渡してみる。






後ろの列の左のほうによく見た顔を見つける。




小学校からの幼馴染み、前麹広嗣(まえこうじひろつぐ)だ。

みんなからはコージと呼ばれている。



目が合うたび変な顔をこっちに向けて笑わしてくる。


ひょうきんなコージは小学校のころから人気者だ。










この富岡中学校は近隣の三つの小学校の卒業生で構成される。





小学校の頃、野球とバスケのスポーツ少年団に所属していたので
練習試合や大会での他校の顔見知りはいるものの、
それでもほとんどが知らない顔だった。







やっとの事で堅苦しい入学式が終わると、教室に移動になる。



おれは1年4組らしい。







教室に入ると、やはりほとんどが知らない顔ばかりだ。





なんだか緊張するけど、
これからの学校生活を考えると少し楽しみでもある。










「それじゃあ一人一人自己紹介してもらおうかな!名前と趣味と今日から3年間頑張りたいことを発表してもらおう、なんでもいいぞー」



自分の自己紹介を終えた担任の伊藤先生の一声で出席番号順に自己紹介が始まる。




「あの、えーと、趣味は~…うーん、なんだろ?」

「3年間頑張りたいことは、小学校の頃から…」



なにを言おうか考えるのに精一杯で他の人の自己紹介があまり入ってこない。



「3年間勉強に励んで有名な高校に入りたいです。」




見るからにガリ勉くんの自己紹介が終わって順番が回ってきた。






「えーと山本伸尋(やまもとのぶひろ)です。友達からは「のぶ」って呼ばれてます。趣味はスポーツで、野球部かバスケ部に入って活躍できるように部活を頑張りたいです。」





パチパチパチと教室中に響く拍手が少し照れ臭かった。









「おーい、また一緒のクラスだなー!」





最初のホームルームが終わり、コージが嬉しそうに声をかけてくる。




「まったく、先が思いやられるよ」



「おーい、嬉しいくせにーなに言ってんのー」



そういって肩を叩いてくる。




またこの甲高い声を毎日聞くことになる。






だが悪い気はしない。




少なくとも退屈ではない学校生活が約束されたような気がした。











初日は入学式と簡単な説明で終わり、下校になる。








帰り道、コージを含め同じ小学校からの家が近い
仲良し5人組で帰る。







自分のクラスはどうだとか、誰が可愛いだとか
いろんな話をしながら帰る道はとても楽しかった。




ふと、こんな会話になる。








「おれら3年生になったらどうなってるかな?」



「おれたちずっと一緒だよな?」



「気持ち悪っ!!」



「車で漫画読んで酔ったときより吐き気する」



「じゃ家で読めよアホか」



「車に轢かれていろいろ飛び出してる猫見たときより吐き気する」



「おまえもいろいろ飛び出させてやろうか?」




「やってみろよ猿」




「キーーーーーー!」



コージが 孫悟空の如く暴れ出す。





「じゃあ10年後っておれらどうなってるかな?」




「10年後かー。23歳くらい?」



「大学卒業するくらいかな?」





「おまえ大学行けないだろ?バカなんだから」



「おい!こらあ!」






コージがキックボクサーの如く素早いパンチキックをくりだす。








「10年後ね〜...」





口にしてみたものの、想像もつかないのでそう深く考える事もなく


青い空の下、楽しい帰り道をみんなと歩いた。









一歩一歩、家に


そしてまだ見えない未来に向かっていた。











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