ついにその瞬間がやってきた。
今日も変わらず体育館で練習メニューが始まる前にシューティングしている時、反対側のコートからボールが飛んできた。
少し面倒だなと思いつつ小走りで飛んできたボールを取って顔を上げると
長谷川さんが立っていた。
「ありがとう!」
驚いて言葉が詰まりかけた。
「あっ、いえ」
「あっキミは1年生の...4組の子だね?」
「あっハイ...そうです!赤組です!」
「やっぱり、そうだよね!体育祭、頑張ろうね!」
光輝く笑顔が眩しくて顔をちゃんと見れない。
「キミ、名前は?」
「や、山本といいます!」
「山本くんか。元気があってよろしい!私は長谷川直子。よろしくね」
「よろしくお願いします!」
「じゃ練習頑張ってねー!」
ボールを持ち、女子バスケ部のコートに戻っていく。
ほんの数十秒だが夢のような時間だった。
後ろ姿にしばらく見惚れていたら突然背中に衝撃を感じる。
誰かにボールをぶつけられたようだ。
「おい、ノブ!お前、長谷川さんと知り合いになったのかよ!?」
ザワが恨めしそうな、羨ましそうな顔で近づいてくる。
「ん?ああ、同じ赤組だからな」
「はぁ〜?なんだよそれ!お前おれのことも紹介しろよ長谷川さんに!」
「いやだね!ってゆうかさっき初めて喋っただけだし...」
「なんだよ...じゃあもうマブダチです!みたいな言い方すんなよ紛らわしい」
「まあこれから仲良くなるから」
「お前簡単に言うなよ〜?おれのリサーチでは長谷川さんには全学年にファンがいる。しかも男女問わずだ。二年生の男子の一部にはファンクラブらしきものもあるっていう噂だ。つまり...」
「つまり?」
「お前が抜け駆けしようものなら黙っちゃいない奴らが沢山いるって事さ」
「本当かよ?お前どっからそういう情報仕入れてくるんだよ」
「それは企業秘密だ。」
「お前企業じゃねーだろ。じゃあザワ、お前あれはどうなんだよ。あれ」
「なんだよ?あれって」
「あれだよお前、フリーかどうかって事だよ」
「ああ、長谷川さんに彼氏がいるかどうかね。当然調べてある。だが幸い今のところはそういう情報は無いな」
「そっか。おまえ何者だよ。まあいいや、じゃあ引き続き調査よろしく」
「承知した。だが条件がある。」
「なんだよ、まずお前なにキャラだよ」
「長谷川さんと喋らせろ」
「だからー、まだ紹介できるほどの仲じゃないでしょうよ、どう考えても」
「じゃあ仲良くなれ。協力は惜しまない」
「お、おう...というか、もう自分で話しかけた方が早いんじゃ...」
「おれはお前の恋が破れるのを楽しみにしてる」
「いや別に恋とかそういうんじゃないし、お前、性格悪いし」
「全校のライバル達を退け、お前にあの頂上の高嶺の花を手に入れられるかな?フッフッフッフ....」
「なにキャラだよ...」
「敵キャラ」
「はいはい、まあ今日はなんにせよ、おれは長谷川さんと喋れたからハッピーだぜ」
「けっ!今日のゲームで一緒のチームになったら絶対パス出さねえ」
「おい!それとこれとは別だろーが!」
ザワやコージ達と長谷川さんの話をしている時は妙に楽しかった。
否定しつつも、この時は自分の中で膨らんでいく気持ちにまだ気がついていなかった。
部活が終わり、家に帰り野菜炒めを食べる。
テレビを見て風呂に入る。
寝る前にボロいギターを弾く。
布団に入ると長谷川さんと喋った事を思い出す。
どんな食べ物が好きなんだろう。
どんな音楽を聴くんだろう。
どんな人が好きなんだろう。
好きな人がいるんだろうか。
暗い夜の学校のグラウンドを走っている。
みんなが前を走っている。
何故だが思うように足が進まない。
後ろから黒い何かが迫ってきていて
怖くて、逃げたくても早く走れない。
みんな...待ってよ...
聞きなれたアラームが聞こえて
目が見慣れた部屋の天井を映し出して
ホッとしたのも束の間。
時計を見ると完全に寝坊だ。
今日お母さん仕事早番なんだっけ...
急いで準備して学校に向かう。
「おー来た来た」
「お前ら...!待っててくれたの....?」
「怒られる時は一緒だろ?」
コージがかっこつけて言う。
「お前ら....」
「まあコージもついさっき来たけどな」
「...」
5月、やっとこの町は暖かくなってきた。
一話から読ませて頂いてます。
返信削除素敵な文章で、青春だなぁ☺️⤴️って、思います。
私も中学生の頃の恋をした時を思い出しました。