あれからというもの、長谷川さんとは学校ですれ違うくらいで、
仲間達とくだらないことをしたり、変哲の無い日々を過ごしていた。
そして、今日は卒業式。
お世話になったバスケ部の三年生、体育祭同じ赤組だった三年生。厳しい面もあったけど、みんなとても良くしてくれた。
今日でお別れだと思うと、寂しく思う。
「先輩達とも今日でお別れかー。寂しくなるな。なぁコージ」
「ホントにいい先輩ばっかりだった。おれらもあんなカッケー先輩になりてーな」
「ま、でもこれで一番下っ端も卒業だ。清々するってもんだ」
「…そうじゃねえだろ。どうすんだよ」
「何がだよ?」
「何がって、分かってんだろ?このまま終わって本当に良いの?」
「…….」
卒業式が始まる。
「厳しい寒さがまだ残りつつも、日差しの春の訪れが感じられる季節となりました。このような佳き日に卒業生の皆様が…」
「卒業証書授与」
卒業生一人一人が卒業証書をステージの上で受け取っていく。
一人一人壇上に上がっていく中で、お世話になった先輩や、こんな人居たんだ…っていう人を見つけたりしていた。
なかでもやっぱり気になったのは、長谷川さんのキチッとした姿勢で卒業証書を受け取って、凛とした顔で歩いて行く姿。
式が終わり、一年生も解散になる。
これで終わりだ。
「コージ….おれ行ってくる」
「おう、行ってこい」
おれは走り出した。
思い思いに友達と喋りながら帰路に着き始めている三年生達をかき分けて坂道を進む。
そして運良く一人になっている長谷川さんを見つける。
「ハァ、ハァ、あの!長谷川さ…」
声を掛けようとした時、横から男が割って入る。
「直子ー、お待たせ」
「もう〜遅いよー」
「後輩達にボタン全部取られちゃってさー」
「ふーん」
「あれ、直子怒ってる?第二ボタンはちゃんとあるよ?」
「あれ、ノブ!」
こっそり戻ろうと思っていたら、見つかってしまう。
「長谷川さん…」
「どうしたの?息切らして」
「…卒業おめでとうございます」
「あ、うん…ありがとう!」
「長谷川さんの…バスケのプレー、好きでしたよ」
「ははっ。ありがと。私みたいになりなさい」
「じゃあ、邪魔しちゃ悪いんで!友達んとこに戻ります!それでは….お元気で!」
「うん!バスケ頑張るんだよ」
目が潤んできているのを気付かれないように、最後の言葉には返事をせずにその場を去った。
終わった。これで本当に終わりだ。
もう会うことは無いだろう。
さよなら長谷川さん…
「おいノブ、なにしてんだ?帰るぞ」
「さっさとPマートいってお菓子パーティーすんぞ」
「三年生の邪魔な野郎どもがいなくなったことを祝う会だな」
いつものメンバーが集まっていた。
「どうなったか聞かないのかよ?」
「もし上手くいってたら、ここにいないんじゃない?」
「た、確かに…」
「そんなんどうでもいいだろ、Pマートで芋けんぴ買いまくって芋けんぴ祭じゃ!」
「よし、蒲焼さん太郎と、酢だこさん太郎も買い占めよう!」
お菓子パーティーは夜遅くまで続いた。
こうして、入学してからの一年が終わった。
この一年だけでも色々あった。
これから先、もっと色々あるんだろう。
ただ今は消えない
あの人の顔を思い出していた。
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