「3x+150=1200のように、文字がある等式を方程式といいます。そしてその文字のことを解と呼びます。そして...」
数学の先生が黒板に文字を書きながら何かを喋っている。
よくわからないし、興味もない。
頭に浮かぶのは昨日のザワの言葉。
「長谷川さんに彼氏がいる」
なんでこんなにも辛いのか理解できない。
きっとこれは方程式なんかよりも
もっともっと難しい問題なんだろう。
「山本くん、さっきから全然ノートをとってないようだけど、大丈夫かな?」
「......」
なにも言わずに渋々ノートをとる素振りを見せる。
先生は何か言いたげだったが、授業を続けた。
昼休み。
「ノブ、なんか元気無いんじゃないの?」
話しかけてきたのは、隣の席の園田麻里(ソノダマリ)だ。
「別に、大丈夫だよ」
「ふーん、さっきノート全然とってなかったでしょ。あたしのノート貸してあげるから後でちゃんと書きなよ?」
「ああ、悪いね」
「いーえ。わたしのノート綺麗過ぎて黒板より見やすいんだから!なんちゃって...」
「あぁ、そう」
「あっそう、じゃないわよ。笑いなさいよ!わたしがボケてやってんだから」
「あ、ごめんボケてたの?」
「やっと笑ったね」
「は?」
「マリー!いくよー!」
「あ、うん!いまいくー!」
マリは友達とどこかへ行った。
元気づけてくれようとしていたのだろうか。
校内放送が流れる。
「1年4組、山本伸尋、職員室まで来なさい」
担任の伊藤先生の声だ。
なんだよ。もうほっといてくれよ。
そう思いながら職員室に向かう。
「ノブヒロ、数学の時間の態度が悪かったそうだな」
「はぁ...」
「先生の注意を無視したそうだな。なんでそういうことをするんだ?」
「いや、ノートはとりましたよ?」
「今言ってるのはそういうことじゃない」
なんだろう。無性に腹が立つ。なんでも知った風な口を聞く先生に嫌気がさした。
でもこれ以上ガミガミ言われるのも面倒くさいから適当に反省したふりして謝った。
教室に戻り、また授業を受ける。
なんて長い時間だろう。
昨日までの世界と今の世界がまるで違う物のように感じた。
でも周りはいつも通り。いつも通りの時間が流れている。
自分だけ違う場所にいってしまったような、そんな気がした。
一番怖いのは長谷川さんに会ってしまう事。
普段通りにできる気がしない。
引退しているので体育館で会わないのが救いだった。
部活の時間になった。
体を動かしていると気持ちが紛れた。
ザワは気を使ってか、昨日の事には触れずいつも通り接してきた。
バスケはやっぱり楽しくてあっという間に終わった。
帰り道。
「今日なんか先生に呼び出されてたけど、どーした?」
部活の後の泥だらけのコージが言う。
「ああ、なんか数学の時の態度が悪かったって」
「ええ、そんなんで呼び出されるの?お前踏んだり蹴ったりだな...」
「まあ、もうどうでもいいよ」
「....よし、じゃあゲーセンいこうぜ!」
「今から?」
「あったりまえよ!」
もう時間は遅い。
一瞬、補導されるかもっていうのが頭をよぎったが、別にどうでもよかった。
「...行くか!」
「そうこなくちゃ」
その時、バカみたいな話をしてゲームをして、全てを忘れられたような気がした。
夜遅い時間に思う存分ゲーセンで楽しんでた二人は案の定、警察に補導された。
学校と親に連絡が入った。
「うわ〜明日めっちゃ怒られるんだろうな〜...」
「コージ、お前おれに気を使ってくれたんだろ?悪かったな...」
「なに言ってんだよ。おれはゲームがしたかったんだよ。どうしても。それに楽しかったからいいじゃん」
「...そうだな」
感謝の気持ちを伝えたかったが、照れくさくてやめた。
「これも何年後か、いい笑い話になるな」
「うん。もういっぱい作ろうや。笑い話」
きっと明日こっぴどく怒られるのだろう。
今夜も憂鬱だ。
でも昨日と違うのは、そんな明日も悪く無いかなと思えることだった。
いつか今日の事を笑って話せる日が楽しみだ。
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