青の空 15話 「引退」




今日は中総体地区予選。


三年生にとっては最後の公式戦だ。



会場の市立体育館に到着すると
すでに第一試合の選手たちがウォーミングアップを始めていて
選手たちの掛け声と熱気で一杯だった。




「今までやってきたことを全部出すだけ。勝ちたいやつが勝つよ」




「はい!」




「声出していくぞ!」





「はい!」




「1年も応援頼んだぞ!盛り上げてくれよ!」





「はい!」




ユニフォームをもらっている2、3年生はコートに入っていく。







「ザワ、応援頑張るか!」




「おうよ!」






1年生は2階に上がる。







「おう、ノブとザワ」






背が高くがっしりした体つきの他校の選手が声を掛けてくる。





「お、大滝...!」








隣の中学、金田二中(かねだにちゅう)の1年、大滝晋助(おおたきしんすけ)だ。




小学校の大会では持ち前の体格とセンスで試合でかなり目立っていた。




「大滝お前もうベンチ入りしてるのかよ?」






「ああ。お前らはその太鼓持って応援か?」






「え、ああ、これな。うん、まあそんなところかな...」









「ははっ。まあおれの活躍を指くわえて見てなよ。あばよ」






ウインドブレーカーの下からユニフォームを覗かせて颯爽とコートに向かって入った。









「くっそ〜...あいつめ...」






「ちっくしょ〜...うちより2、3年生が少ないだけだろ?」





「今に見てろよ...」







悔しさをバネに応援を頑張ることにした。













2階に上がるとギャラリーの中に背が高く一際目立っている人がいた。






「ザワ、あれってうちの中学の人だよね?」







「ああ、あの人はサッカー部3年、キャプテンの木村さんでしょ?背高いし顔かっこいいし、サッカーもめちゃくちゃ上手いらしいよ」






「そうなんだ...心なしか周りの女子がざわついてるもんね」






「あれはモテるだろうな。うらやましいなぁ。」










間も無く試合が始まる。





うちのスターティングメンバー5人と
相手校の5人がコートの真ん中で向かい合う。





一礼をし、ジャンプボールから試合が始まる。





自分があそこに立ったらと想像してみると、少し緊張する。





 

「始まったね」






「長谷川さん!足は大丈夫なんですか?」






「大丈夫。問題無し!」






「よかった。女子ももう次の試合ですよね?」





「うん。私たちも運が悪いわ。一回戦から県大会常連校と当たるなんて」





「きっと長谷川さんがいれば勝てますよ。応援してます」






「ありがとう。それじゃあアップしてくるね」





あの長谷川さんがどこか余裕の無い表情だ。








自分にできる事は一つ、無我夢中で応援した。













結果、男子は初戦を勝ち上がり決勝までコマを進めたが、僅差で敗退。




女子は一回戦で優勝チームと当たり敗退した。













「ここまでよく頑張った。厳しい練習をよく耐え抜いた。辞めたいと思った時もあるだろう。この3年間バスケに打ち込んだ事はこの先の人生の大きな糧になる。これからも精一杯頑張って欲しい」




監督の最後の言葉に涙する3年生達を見て胸が熱くなった。






長谷川さんもタオルに顔を埋めて泣きじゃくっているようだった。





何かしてあげたい気持ちでいっぱいになったが、結局その日帰るまで話しかける事も出気なかった。







「明日から練習1、2年だけか」





ザワがつぶやく。




「寂しくなるな」




「お前は長谷川さんがいなくなるからだろ?」






「ちげーよ。まあそれもあるけど」






「まあ新人戦に向けて頑張ろうぜ。やっと俺たちの出場機会が増えるってもんだ。大滝にも負けてらんないぜ」





「うん。そうだな」








今日で3年生は引退。








これからはめっきり長谷川さんに会う機会が減ってしまう。





そう考えると、これからの学校生活が退屈になってしまいそうで嫌だった。







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